邦楽における短い名曲達〜"伝えること"に時間はいらない〜【ほぼ2分以内】

"伝えること"に時間は関係あるだろうか。
TikTokの切り抜きなどでその曲の一部分だけを加工して取り扱う文化があるが、私はそれにかなり違和感を覚える。
曲全体を通して見ないと正しい解釈が出来ないし、一部を切り取って聴かれることをアーティストは望んでいるのだろうかと考えてしまう。
私が今回紹介するのは、元々の曲の時間が極端に短いと思う楽曲達。
曲の長さがほぼ2分以内、長くても3分未満の名曲を集めてみた。
そこから、短い曲だからこその魅力、
制作するアーティストの本質についてまで語ろう。
紹介する楽曲は下記の通り
知っている曲はあるだろうか。
一曲ずつ紹介しよう。
『andyとrock』 andymori
時間:56秒
andymoriは2007年〜2014年に活動した、既に解散してしまったバンドだ。私は好きで、解散した今でもよく聴いている。
この曲の長さは1分にも満たない。
圧倒的短さの名曲だ。
こんなにドデカいクレッシェンドマーク(=だんだん大きくなる)のような曲、それまでの私は聴いたことがなかった。
さらに言うと歌詞も次第にクレッシェンドしている。下記に歌詞を記載する。
いつからか時間がとまっていた
右に左に音の波の中
これでいいかとうなずいたときに
あいつ変だと指をさされたよ
もう戻れない場所を思うとき
もう会えない人を思うときに
アンプけったらギャンギャンないた
15ワットの小さな世界が
アンプをけりとばしたんだ
アンプをけりとばしたんだ
ギャンギャンないたギャンギャンないて
ディストーション 壁をたたいた
血管切れる音がしてオルドバイからブルジュドバイまで
アンディ 死にたいと うたっていた
アンディ 帰りたいと 叫んでいたんだよ
私なりに解釈するのであれば、苦悩するこの曲の主人公が"人からの蔑視""大切な人との別れ"を経験し、音楽にぶつける。
その"死にたい""帰りたい"という叫びは、
オルドバイ(恐らくタンザニアにあるオルドバイ峡谷=低い地点・自然の象徴)から
ブルジュドバイ(ドバイにある当時世界で一番高かった高層ビル=高い地点・文化の象徴)
まで鳴り響き、世界中を駆け巡る。
といったところだろうか。
当時高校生だった私だが、この曲を聴き、死にたいと思う感情さえも肯定され、自分の存在も全肯定されたと思った。
私はロックは大きく分けると2種類あると考える。肯定のロック、否定のロックだ。
私にとって、andymoriは肯定のロックの代表的である。
『エピソード』 星野源
時間:2分11秒
ご存じ、日本中の男達から新垣結衣を奪った
極悪人。
しかし、私は彼の作る音楽が好きだ。特に初期の曲。この曲もその時期に作られた楽曲。
歌詞を見ていこう。
30分の一話の中で
先の見えない苦しみは
15分あたりにくるんだお金の匂い 間にはさみ
ふと君のことを思い出す
未来が見えないな この世界でも楽しい時間 あっと言う間だろ
どんな話でも大丈夫
15分もすれば 次のエピソード
"ぼのぼの"というアニメの最終話はご存じだろうか。
「楽しいことはなんですぐ終わっちゃうのかな」
という主人公のぼのぼのの問いかけに、
いつも教訓をくれるスナドリネコさんは
「日が昇って沈むように、つらいことが終わるために楽しいこともおわってしまう」
と答える。
このやりとりと曲は通じるものがある。
辛いこと、悲しいことは一つのエピソードであり、それを乗り越えればまたつぎのエピソードに切り替わるだけなのだ。
辛いことの最中"未来が見えない"と嘆くが、"大丈夫"それはいつか終わるのである。
これは一種の願いのような曲にも聴こえるし、
聴く人を励ます曲にも捉えることが出来る。
彼はこういう曲を作るのがとても上手だ。
さすが源さん。
『ランチ』 くるり
時間:2分1秒
私はくるりの大ファンである。
歌詞を見よう。
君が微笑みかけた
磨かれた床に造花の影だけが映る
君はランチをつくった
食べきれないよ微笑む声が僕のものじゃなくなる瞬間
久し振りに珈琲をたてよう
未来の事を話したい
いつでも愛ある明日を信じていたい
珈琲は冷めてしまったよ
ある愛し合う二人がランチを食べ、コーヒーを入れる。そこで未来の事を話し合う。
"コーヒーは冷めてしまった"の解釈は2通りあると思う。
- 愛は冷めてしまった
- 未来のことを話すのに夢中になって物理的にコーヒーが冷めた
いずれにせよ、恋人か夫婦かは分からないが、
ありふれた日常の美しい風景を描いている。
完全にイメージの問題になってしまうが、天気であれば、カラッと晴れているわけでもなく、土砂降りの雨でもない、曇りの日にかすかに光が差しているような楽曲が彼らには多い。
私はロックには肯定と否定の2種類あると言ったが、もう一種類あると訂正させてほしい。
その中間を行き、100人いれば100通りの感じ方が出来る。そんなロックも存在する。
くるりは"曇り"のロックの代表格である。
『SASU-YOU』 NUMBERGIRL
時間:2分20秒
これから物騒な話をする。
あなたは音楽に殺される、あるいは殺されても構わないと思ったことはあるだろうか。
NUMBERGIRLを聴くといつもそんな気持ちになる。歌詞を解釈するのは、彼らを評するのに合っていないので、敢えて載せない。
簡単に言えば、2分間、こちらの心を"刺す"ことだけに作られた殺戮マシーンのような曲。
リスナーの心に刺さり続ける。その矛先は社会そのものにも向けられているだろう。
何がそんなに不満なのか、どんな傷を抱えているのか、、
気になってしまってからは、ナンバガを聴くのがやめられなくなる。
なぜここまで否定的で人の心を打てるのだろうと考えた時、考えたことが一つある。
それは"否定を続ける"ことのみ、肯定してくれるからだ。
あーだこーだ書いてしまったが、ただ単純にカッコいいだけのバンドである。
『歌をあなたに』 中島みゆき
時間:2分38秒
大ファンの母親の影響で、私は中島みゆきを聴くようになった。というよりも、母親のお腹の中にいた時にはすでに聴いていたのかもしれない。
歌詞はこちら
何ンにも 言わないで この手を握ってよ
声にならない歌声が 伝わってゆくでしょう
どんなに 悲しくて 涙 流れる日も
この手の中の 歌声を 受け取ってほしいのよそれが私の心 それが私の涙
なにも できない替わり 今 贈る
歌おう 謳おう 心の限り
愛をこめて あなたのためにそうよ 目を閉じないで 明日を探すのよ
誰も助けはしないから あなたが探すのよ
あんまり 淋しくて 死にたくなるような日は
この手の中の歌声を 受け取って歩くのよいつか夢みたような いつか忘れたような
夢をたずねる人に 今 贈る
歌おう 謳おう 心の限り
愛をこめて あなたのために
歌おう 謳おう 心の限り
愛をこめて あなたのために
今まで紹介して来た楽曲の中で一番シンプル、かつ、雄大なテーマを歌っている。
彼女の楽曲はiTunesにもYouTubeにも公式のものがないので、お聞かせ出来ないのが残念である。
約50年近く第一線で活躍し続ける"歌姫"の歌うこと自体への意義を伝えている。
一般的に暗い、力強い、といったイメージの彼女の楽曲の中で、この曲はとても温かく、優しい。
TOKIOに提供した"宙船"という楽曲の中で、
お前が消えて喜ぶものにお前のオールを任せるな
という節がある。
"宙船"が自分自身でオールを漕いで行かなければならないと伝えるように、
この楽曲は、リスナーの人生自体はリスナーのもので歌っている私には変えてあげることは出来ない。けれど、歌で頑張るあなたの後押しが出来る。
本当にシンプルだけど、だからこそ圧倒的なパワーをこの曲からは感じるのだ。
『歌をあなたに』収録アルバム
今回は短い曲という括りで、5曲紹介したが、思いの外、熱が入り長々と綴ってしまった。
短い楽曲だからこその魅力、そこから見えるアーティストの骨の部分が少しでも伝わればと思う。
"伝えること"に時間は関係なく、
むしろ短いからこそ凝縮されたものがある。